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2010年10月19日 (火)

戦国武将と茶の湯「佐々木道誉」第五回

■道誉逸話2「大原野花見の宴」
「太平記」巻第三十九

バサラ大名佐々木道誉が、晩年に催した芸能尽くしの一節を太平記が伝えている。今をときめく管領斯波高経が大宴会を御所にて計画したのに対抗して、高経の日頃の専横に泡を吹かせてやろうと、その向うを張って同日に大宴会を催すくだりである。

道誉かねては参るべき由領状したりけるが、わざと引き違へて、京中の道々の物の上手ども、ひとりも残らず皆引き具して、大原野の花の本に宴を設け席を敷きて、世に無類遊をぞしたりける。

すでにその日に成りしかば、輕裘・肥馬の家を伴ひ、大原や小塩の山へぞ趣きける。麓に車を駐め、手をとつて碧蘿を攀づれば、曲径幽処に通じ、禅房に花木滋し。寺門に当つて湾溪の水を渉れば、路羊腸をめぐりて、橋雁歯(がんし・橋のきざはし)の危ふきをなせり。高欄をば金襴を以てつつみ、ぎぼうしには銀薄を押し、橋板には大唐の氈、蜀都の錦、色々に敷きのべたれば、落花上に積つて朝陽の溪陰に到らざる処、横橋一枝の雪を留め得るに相似たり。踏むに足冷じく、歩むに沓かんばしくして、遙かに風磴(ふうとう)を登れば、竹筧(ちくひ)泉を分けて、石鼎(せきてい)に茶の湯をぞ立てたりける。松籟(しょうらい)声を散じて芳甘春濃やかなれば、一碗の中にたちまちに天仙をも得つべし。紫藤の屈曲せる枝ごとに、平江帯を以て青磁の香炉を釣り、金糸の卓を立て鷄舌の沈水(けいぜつのじんすい・丁字の香料)を焼き上げたれば、春風匂ひ暖かにして、覚えず栴檀(せんだん・白檀)の林に入るかとぞ覚えたる。瞳を千里に供じ首を四山に回らすに、烟霞重疊として山川まじはり、そばだちたれば、筆を丹青に仮らずして、十日一水の精神を云にあつめ、足寸歩を移さずして、四海五湖の風景を立ちどころにぞ得たりける。

一歩三嘆して遙かにのぼれば、本堂の大庭に十囲の花木四本あり。その本に各一丈余の鍮石(ちゅうせき・真鍮)の花瓶を鋳懸けて、一双の立花に作り成し、その際に両囲の香炉を両机に置きて、名香一斤を一度に焼きたれば、香風四方に散つて、皆人の浮香世界の中に在るが如し。その陰に幔幕を引き、曲彔(きょくろく・椅子)を立て並べ、百味の珍膳を調え、百服の本非を呑みて、懸物山の如くに積み上げたり。

舞工(ぶこう・猿楽師)一度回鸞の翅を翻し、楽家濃やかに春鴬の舌を暢ぶれば、座中の人々色々様々に、小袖・直垂・大口を解いて投げ与ふ。興闌け酔ひに和して、帰路に月無ければ、松明天に耀き、鈿車軸轟き、細馬轡を鳴らして馳せ散り、叫喚たる有様は、ただ能く三巳・百鬼の夜深けて巷を過ぐるに異ならず。花開き花落つる二十日、一城に人皆狂せるが如しと、牡丹妖艶の色を風せしも、誠にかくこそありつらめと思ひ知らるるばかりにて、見聞の諸人皆耳目をぞ驚かしける。


道誉の反骨躍如もさることながら、花木の周りを真鍮の花瓶で囲んで、生きた桜の木をさながら立花のように演出したり、その間に巨大な香炉を並べて香りを楽しむところ、また猿楽師や白拍子に芸能三昧を尽くさせるところなどは、まさにバサラの美学がたどりついた幽玄の境地というべきだろうか。
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