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2010年6月29日 (火)

奥の細道行脚。第十一回「立石寺」

【おくのほそ道】

 山形 領内に立石寺 という山寺がある。慈覚大師の開基であり、ことに清浄閑寂の地である。一見の価値ありと人々も勧めるので、尾花沢よりとって返す。その間七里ばかりであった。
 日はいまだ暮れぬ。麓の坊に宿を取っておき、山上の堂に登る。岩に巌を重ねて山とし、松栢年を経、土石老いて苔なめらかに、岩上の僧院はみな扉を閉じ、物音一つ聞こえず。崖をめぐり 、岩を這って 仏閣を拝し、佳景寂寞として心が澄み行くばかりの心地がする。


 閑さや岩にしみ入蝉の声


鑑賞(人の気配も絶え、静寂無音の真夏の山寺。時間さえも止まり、ただ蝉の声だけが苔むした岩にしみ透っていくようだ)


【曾良旅日記】

○二十七日。天気よし。辰の中刻、尾花沢を発ち、立石寺(りゅうしゃくじ)へとおもむく。清風より馬で館岡 まで送られる。尾花沢から二里で本飯田 。
一里、館岡。一里、六田 。馬継ぎのところで内蔵 に会う。二里余、天童 (山形へ三里半)。一里半足らずで、山寺 。未の下刻に着く。参拝者用の宿をとる。当日、山上・山下の巡礼が済む。ここから山形へ三里。
山形へ行こうとするが、中止。ここから仙台への道がある。関東道を九十里余りとなる。


【奥細道菅菰抄】

山形領内に立石寺という山寺がある。慈覚大師の開基であり、ことに清浄閑寂の地である

 山形は、最上郡の城下で、町の長さは二里ばかりである。現在の最上郡は、この山形のみであるとか。立石寺、俗に山寺という。村山郡最上川の東の山だ。麓の里を、山寺村と呼ぶ。現在、官領の地。立石寺は、千五百石を領し、武州東叡山に属す。慈覚大師入定の地という。山中にその跡あり。
 坊舎多く、様々の奇岩があり、絶景の地である。

 慈覚大師は、名を円仁という。『元享釈書』にいう。
「釈の円仁、姓は壬生氏。野の下州、都賀郡の人である。延暦十三年に生まれる。九歳にして、同郡大慈寺、僧広智に仕え、十五歳で伝教を師とする。
 二十三歳、和州東大寺にて具足戒を受けた。承和五年、遣唐使藤原常嗣に従って入唐。十四年帰朝。仁寿四年四月、叡山の座主に任ぜられる。
 貞観六年正月十四日、入寂。享年七十二。八年、諡慈覚大師を賜った」。

○山寺の地元民に伝承がある。慈覚大師には悪運がついていたと。(俗にいう剣難である)世人は伝える。この因縁を持つ者は、必ず刃傷沙汰を起こすのだ。これを悟り、大師は常に恐れ慎んでいた。はたして大師が立石寺にて入寂の後、叡山と葬所の争いが起こり、叡山より衆徒ども来たって、ついに大師の首を斬り、叡山へ持ち帰ったと伝えている。

松栢年を経

 栢(はく)は、柏の俗字で(今一般に、柏をかしわと訓じているが、はなはだしい誤りである。理由は下に述べる)中国の柏は種類が多い。『本草綱目』に詳しい。(日本では、檜のこととも、あすなろの木のことともいっており、はっきりしない)一説によると、栢の字をかや、と訓ずるのは誤りであると。かえ、と訓ずるべきであろう。(すなわち柏の和訓)かえぬの木の略であり、この木は秋になっても黄葉しないからである。かやは、かやりの木の略で、榧の字を用いる。この木を蚊遣りとするためという。

崖をめぐり、岩を這って仏閣を拝し、佳景寂寞として心が澄み行くばかりの心地がする

 崖をめぐりとは、境内右の山に、胎内潜りという岩がある。岸壁の飛び出した下を背をかがめてくぐるのだ。この岩へ行くには、はしごを登り、鉄の鎖にすがる。胎内潜りを抜け出したら、しばしの間、岩の端をつたい歩く。はなはだ危険な箇所である。これらをいう。
 岩を這うとは、左の山の出先に、天狗岩と呼ぶ、恐ろしい大岩石が直立する。これへの道は、斜めになった磐石を十間ばかり登るのだ。石の表面は滑らかで上を歩けるものではない。ただ腹ばいとなって(俗に四つんばいという)やっと登ることができる。これをいう。
 閣は、『正字通』に、「楼観である」としている。仏殿の巍巍たるを称した名であろう。寂寞は、二字ともに、さびし、しづかとも訓ずる。法華経、法便品に、「寂寞として人声無し」とある。一般に、しんしんとする、という意味。ものの静かな様子である。

閑さや岩にしみ入蝉の声

 年忌の年であろうか、最上林崎駅の壺中という俳士が、この山中に翁の塚を築き、この短冊を埋めて、蝉塚と名付けた。


『奥の細道 曾良旅日記 奥細道菅菰抄 全現代語訳』能文社 2008
http://bit.ly/cnNRhW
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